大河ドラマ べらぼうとお金について
2025年の大河ドラマは商人が主人公
2025年大河ドラマ「べらぼう」は「江戸のメディア王」と呼ばれた蔦屋重三郎という書商のお話です。商人が主人公であるだけに、お金にまつわる話がひんぱんに登場します。
現代と「べらぼう」の時代の金銭価値を比較
一口にお金といっても、現代では通貨の価値も違えば、生活水準や物価水準も異なるため、比較することは大変に困難です。
そうはいってもドラマの中で登場人物が、いきなりセリフで「金二分が必要でございます」といっても、今の何円の価値になるのか想像に困るでしょう。
そこで今回の記事では、大河ドラマ「べらぼう」の時代に使われていたお金の単位と、ドラマに登場するモノやサービスの値段が、現在の価値にして何円になるのか簡単に紹介いたします。
大河ドラマ べらぼうの時代のお金の単位 両・分・朱・文
お金の単位 金貨と銅銭
「べらぼう」に登場するお金の単位について、以下の4つの単位と読み方を覚えてしまいましょう。
- 両(りょう)
- 分(ぶ)
- 朱(しゅ)
- 文(もん)
江戸では金貨と銅銭が流通
江戸時代中期の江戸では、主に金貨と銅銭が使われていました。ある程度まとまった金額のものを決済するときは、金貨(両・分・朱)が使われ、日常生活を営むために細々としたものを決済するときは、銅銭(文)が使われていました。
上方(京・大坂)では銀貨と銅銭が流通
ここまで読んで「銀貨は使わないの?」と思ったかもしれません。
当時は「江戸の金使い、大坂の銀使い」と言われたように、江戸と上方では、特にまとまった金額のものを決済するときには、使う貨幣の種類が異なりました。
両替商で金貨と銀貨を交換
大坂では決済用の貨幣として銀貨が主に使われており、大坂の商人が商売のために江戸に銀貨を持ち込む際には、両替商で銀貨と金貨をそのときどきの交換レートにもとづき両替をしていました。
大河ドラマ べらぼうの時代のお金の価値
文(銅銭)
江戸で使われているお金のうち最も小さい単位が文(もん)です。大河ドラマ「べらぼう」を見るときは、「一文=47円」として計算しましょう。
令和と江戸時代では生活水準や物価水準が全く異なり、通貨価値それ自体が変動するため、一文が現在の何円になるか単純に計算できません。
しかしおおむね江戸時代の一文とは、現在の価値にすると30円〜50円であったと推定されます。
両(金貨)
江戸で使われているお金のうち最も小さい単位が両(りょう)です。いわゆる小判のことです。大河ドラマ「べらぼう」を見るときは、一両=18万8千円。
一両は一文の4,000倍に相当します。
分(金貨)
江戸で使われているお金のうち、両の次に大きい単位が分(ぶ)です。大河ドラマ「べらぼう」を見るときは、一分=1万1,750円。
一分は一両の4分の1で、一文の1,000倍に相当します。
朱(金貨)
江戸で使われているお金のうち、分の次に大きい単位が朱(しゅ)です。大河ドラマ「べらぼう」を見るときは、一朱=1万円ぐらいに思っておきましょう。
一朱は一分の4分の1、一両の16分の1で、一文の250倍に相当します。
ただし「べらぼう」1話の時代である1772(明和9)年ごろから、「南鐐二朱銀(なんりょうにしゅぎん)」という二朱(約2万3,500円)の価値を持った銀貨も江戸で流通し始めます。
両・分・朱・文の交換比率
こうして見ると江戸で使われている金貨と銅銭の間には、ある程度の交換比率が確立していたことが分かります。一両を基準にすると、それぞれの金貨、銅銭の価値の比率は、おおよそ以下の通りとなります。
- 一両 = 四分 = 十六朱 = 四千文
なお4,000枚を集めた銅銭のことを一貫文(いっかんもん)と呼ぶこともあります。もちろんこの一貫文は一両に相当します。
長谷川平蔵(中村隼人)と銭相場
「鬼平」シリーズで有名な長谷川平蔵
大河ドラマ「べらぼう」には、中村隼人さん扮する長谷川平蔵宣以(はせがわへいぞうのぶため)。彼は「べらぼう」の1話と2話ではただのドラ息子です。
しかしテレビドラマ「鬼平犯科帳」シリーズでも有名であったように、のちに火付盗賊方改、いわゆる「火盗」の長官として活躍します。
「火盗」の長官とは、今で言うところの強盗や殺人などの凶悪事件の捜査を指揮する、警視庁捜査一課長とその管理官を兼ねた役職といったところでしょう。
常に捜査資金を確保していた「鬼平」
長谷川平蔵が「鬼平」として現代にまで名を伝えることができたのは、単に犯罪捜査の指揮が上手かっただけではありません。
長谷川平蔵が「火盗」の長官として優秀であったもう1つの理由は、常に潤沢な捜査資金を確保していて、地道な捜査を長期間にわたって続けられたからと言われています。
長谷川平蔵は銭相場で儲けた資金を捜査費用に充てていた
しかし幕府首脳部から火付盗賊方改につけられる予算は乏しく、江戸市中にはびこる凶悪犯罪を十分に追及することができません。
そこで長谷川平蔵が目に付けたのは、銅銭と銀貨・金貨との間にある交換相場です。捜査費用の不足分は自らが銅銭と他の通貨間を取引する交換相場に参加して、その差益をもって不足する捜査資金に充てていたそうです。
この交換相場は現代風に言えばFXであり、稼いだお金の使い道はさておき「鬼平はFXで儲けていた」とも言えるでしょう。
大河ドラマ べらぼう モノやサービスの値段
貸本(かしほん)の値段
「べらぼう」の蔦屋重三郎(横浜流星)が最初に自分で起こした商売といえば、貸本屋です。
蔦屋重三郎は方々を歩き回って自分が仕入れた本を人に貸していくことを生業としていましたが、この貸本屋の貸本は一冊あたり六文から二十四文、高い本で七十二文であったと言われています。
今でいえば本のレンタル料は2820円から1,128円ぐらい、高い本で3,384円だったといったところでしょう。
かけそばの値段
大河ドラマ「べらぼう」では、五十間道にある次郎兵衛(中村蒼)が経営する「蔦屋」の向かいに、半次郎(六平直政)が経営するそば屋「つるべ蕎麦」があります。
蔦屋重三郎が活躍した時代、そば屋で食べるかけそばの値段は一杯十六文であったと言われています。今で言うと752円ぐらいでしょうか。
べらぼうの5話で蔦屋重三郎と平賀源内(安田顕)が、五十間道で半次郎が主人をしている「つるべ蕎麦」でそばを食べるシーンが登場します。
揚代(あげだい)
揚代とは吉原にきた遊客が目当ての女郎と遊ぶために、女郎屋に支払う料金のことです。この揚代は6階級制に基づいた女郎のランクによって金額が異なります。
呼出(よびだし)
ランキング1位の呼出(よびだし)または「呼出昼三」とも呼ばれる高級女郎を指名するための揚代は一両一分です。
「べらぼう」に登場する「松葉屋」の花の井(小芝風花)を指名するためには、約23万5,000円が必要であったと考えられます。
昼三
ランキング2位の昼三(ちゅうさん)と呼ばれる女郎を指名するための揚代は三分です。
「べらぼう」に登場する「松葉屋」の松の井(久保田紗友)と遊ぶためには、約14万1,000円が必要であったと考えられます。
座敷持(ざしきもち)
ランキング4位の座敷持(ざしきもち)と呼ばれる女郎を指名するための揚代は二分です。
「べらぼう」に登場する「松葉屋」のうつせみ(小野花梨)や「玉屋」の志津山(東野絢香)と遊ぶためには、約9万4,000円が必要であったと考えられます。
切見世女郎(きりみせじょろう)
ランキング最下位の切見世女郎(きりみせじょろう)と呼ばれる女郎を指名するための揚代は百文です。
「べらぼう」に登場する「二文字屋」の千鳥(中島瑠奈)や朝顔(愛希れいか)と遊ぶためには、約4,700円が必要であったと考えられます。
花魁と遊ぶときは揚代以外の費用も必要
呼出のような「花魁」とも呼ばれる高級女郎と遊ぶときは宴会の席を、遊客自ら設けることが必須です。そのため遊客は宴会に伴う飲食費、座を盛り上げるために呼ぶ芸者たちの費用、さらにご祝儀まで自分で負担する必要があります。
つまり呼出と遊ぶための総額料金は一両一分だけで済むことは決してなく、明朗会計とはほど遠い莫大な費用がかかることに注意する必要があります。
女郎の身代金(みのしろきん)
「べらぼう」で使われる「身代金(みのしろきん)」とは、現代で使われるように誘拐犯が被害者に請求するお金のことではなく、女郎たちが女郎屋の主人に対して負っていた借金のことです。
気に入った女郎を引き取って自分の妻や妾にしたい遊客は、彼女たちの借金を肩代わりして身請けをしてその女郎の身柄を引き取ります。
べらぼう 9話では、「松葉屋」のうつせみ(小野花梨)と瀬川(小芝風花)に身請けの話が浮上します。
うつせみの身代金
「松葉屋」で座敷持の格を持つ、うつせみを身請けする場合、金三百両が必要です。これは一両=18万8,000円のレートで計算して、今の5,640万円に相当します。
瀬川の身代金
瀬川は以前は「花の井」を名乗っていましたが、9話までに「五代目瀬川」の名跡を継いでいます。そんな瀬川を身請けするために鳥山検校(とりやまけんぎょう)が支払った身代金は千四百両で、なんと今の価値で2億6,320万円に相当します。