南鐐二朱銀(なんりょうにしゅぎん)とは
南鐐二朱銀の貨幣価値は約23,500円
2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」に登場する「南鐐二朱銀(なんりょうにしゅぎん)」とは、老中・田沼意次(渡辺謙)が経済活性化を目的として、1772(明和9)年から1787(天明7)年までの間に、幕府が発行した純度の高い銀を使った計数貨幣(けいすうかへい)のことです。
南鐐二朱銀1枚を現在の貨幣価値に直すと、約23,500円となります。
南鐐二朱銀の「二朱」とは?
なぜ南鐐二朱銀が約23,500円相当になるのでしょうか?
「南鐐二朱銀」の「朱」とは、江戸時代の江戸で使われた金貨の単位を表す言葉の1つです。「べらぼう 貸本・かけそば・揚代・一両・一分・一文 いくら?何円」という記事の、「両・分・朱・文の交換比率」という項目で、江戸の通貨単位について、以下の交換レートが確立していたことをご説明しました。
- 金一両 = 金四分 = 金十六朱 = 銅銭四千文
「べらぼう」では一文 = 47円のレートで計算しています。一文の250倍の価値がある一朱は、現在の1万1,750円に相当します。その2倍である二朱とは23,500円相当となります。
「南鐐(なんりょう)」の意味
古代中国において「南」の字には「最高の品質」という意味があり、また「鐐」の字には「純粋で輝きを伴う金属」というニュアンスがあります。
南鐐二朱銀は「質の高い銀を使っている」と世間にアピールするため、額面の前に「南鐐」の二文字が使われていたと考えられます。
田沼意次が南鐐二朱銀を発行した理由
南鐐二朱銀発行以前の通貨制度
江戸時代の貨幣制度では、金貨・銀貨・銭貨の3種類が併用されていましたが、それぞれの使用方法に違いがあり、流通に混乱が生じていました。
- 金貨(計数貨幣): 枚数で価値を計算し大商人や高額取引で使用。主に江戸で使用
- 銀貨(秤量貨幣): 重量で価値を決めるため商取引の際に秤で測る必要がある。主に大坂で使用
- 銭貨(銭貨): 庶民の日常的な取引で使用され小額の取引向け。
特に銀貨は秤量貨幣(しょうりょうかへい)として扱われ、重量を測る手間や純度のばらつきが課題でした。これにより商取引が非効率となり、スムーズな経済活動に支障をきたしていました。
田沼意次はこれらの問題を解決するために、計数貨幣である南鐐二朱銀の鋳造を命じます。
南鐐二朱銀を発行した理由 その1 貨幣流通の効率化
南鐐二朱銀は「計数貨幣」として導入されたため、重量を測る必要がありませんでした。この結果、商取引の手間が減り、特に都市部での取引がスムーズになると期待されました。
南鐐二朱銀を発行した理由 その2 銀貨の統一化
秤量貨幣として使用されていた「丁銀」や「豆板銀」には、形状や純度のばらつきがありました。南鐐二朱銀は高純度の銀(南鐐)を使用し、統一された形状と価値を持つ貨幣として流通を安定させる狙いがありました。
南鐐二朱銀を発行した理由 その3 財政改革の一環
田沼意次は財政難を改善するために、貨幣発行で得られる「貨幣発行益(シニョリッジ)」の利益を得ようとします。
南鐐二朱銀がいくら質の高い銀を使っているといっても、南鐐二朱銀を1枚発行するための「原料価格 + 鋳造費用」は、金二朱の価値よりも低くしています。
幕府は「二朱よりも少し安い」南鐐二朱銀を、市場で金二朱として交換することで、「金二朱 – 南鐐二朱銀」の差益を出し、御金蔵を潤すことになります。
南鐐二朱銀を発行した理由 その3 海外との貿易振興
銀は国際的な貿易でも重要な資源でした。南鐐二朱銀の純度の高さは、国外取引での信頼性を高めると期待されます。
南鐐二朱銀のデメリット
南鐐二朱銀のデメリット その1 地方で流通しなかった
いいことづくめの南鐐二朱銀に見えますが、デメリットもありました。1つ目は、商業活動が活発な江戸や大坂の都市ではある程度、流通させることに成功しましたが、地方ではあまり普及しなかったことです。
地方では丁銀や豆板銀を使った秤量貨幣が主流だった上に、銀貨そのものに銭貨ほどの需要がなかったからです。
南鐐二朱銀のデメリット その2 銀の海外流出
江戸時代を通じて日本の銀は海外産のものと比べると良質で、銀貨としても質の高かった南鐐二朱銀は、幕府と貿易をするオランダ商人たちが輸出品の代金を受け取るときに、こぞって求められました。
その結果、日本から銀の流出が止まらなくなり、国内の銀価格が高騰する事態を招くことになります。
銀の海外流出は田沼意次による失政の1つとされ、田沼意次が失脚するとともに1787(天明7)年に南鐐二朱銀の発行は停止されました。
べらぼうと南鐐二朱銀
「べらぼう」に組み込まれている南鐐二朱銀
2025年大河ドラマ「べらぼう」のあらすじを読んでいると、
- 南鐐二朱銀が発行された時の貨幣制度
- 南鐐二朱銀のメリット
- 南鐐二朱銀のデメリット
の3つの点が全て織り込まれています。
べらぼう 2話の南鐐二朱銀
べらぼう 2話では、安田顕さん扮する平賀源内が懐から南鐐二朱銀を取り出して、蔦屋重三郎に見せびらかしながら「銀に『朱』とつけたのがとてつもなく優れもん」だと自慢しています。
江戸時代では「朱」という単位は従来、金貨につけられるもので、銀貨に「朱」が使われることは極めて珍しかったことを表しています。
べらぼう 6話の南鐐二朱銀
べらぼう 6話では、勘定奉行所吟味役の松本秀持(まつもとひでもち)(吉沢悠)が、田沼意次や松平武元(まつだいらたけちか)の前で幕府の財政状況を報告しています。
その報告は幕府の財政が立ち直りつつあるというものですが、その要因の1つとして南鐐二朱銀の発行による、通貨発行益が含まれているとしています。
べらぼう 8話の南鐐二朱銀
べらぼう 8話では、江戸城中で徳川家の盛大な墓参りである「日光社参」の話が持ち上がります。
財政を預かる田沼意次にとって金のかかるイベントは好ましくありません。しかし意次のブレーンである平賀源内は「この際だから南鐐二朱銀を使っちゃいましょう」と進言します。
日光社参は庶民の側から見ると幕府に対して人馬や宿の提供、道路の建設工事などを請け負う「地方への公共事業」という側面もあります。
その幕府から庶民に対する支払いを南鐐二朱銀で行い、地方で南鐐二朱銀が流通することを図ります。