豊臣秀長の正室(正妻)・慈雲院について
慈雲院とは
慈雲院(じうんいん)とは2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」に登場する慶(ちか)(吉岡里帆)のモデルとなっている女性です。
慈雲院は豊臣秀長の正室(正妻)で、秀長との間に長男・与一郎をもうけた女性として知られています。ただ慈雲院の前半生については「豊臣秀長と結婚した」・「長男の与一郎を出産した」と推定されるだけで、はっきりとした結婚・出産の年は分かっていません。
史料に基づいて慈雲院の動向が明らかになるのは、1585(天正13)年に豊臣秀長が大和国を領国としたときからのことです。
「慈雲院芳室紹慶」の法号から一字をとって「慶」としたか
「豊臣兄弟!」に出演される吉岡里帆さんの役名は「慶(ちか)」です。しかし慈雲院の実名が慶であったかどうかは分かっていません。
「慈雲院」と言うのは法号であり、正確な法号は高野山奥之院にある五輪塔から「慈雲院芳室紹慶」と伝わっています。
大河ドラマ「豊臣兄弟!」における吉岡里帆さんの役名は、おそらく「慈雲院芳室紹慶」という法号の一字をとって「慶」としていると考えられます。
実在した慈雲院の出自は不明
豊臣兄弟! 12話「小谷城の再会」で登場する慶(ちか)
「豊臣兄弟!」で吉岡里帆さん演じる慶が初めて登場するのは、12話の「小谷城の再会」です。
のちに豊臣秀長と呼ばれるようになる主人公の小一郎(仲野太賀)は、主人の織田信長(小栗旬)から嫁を取れと明治られ、その結婚相手がかつて「美濃三人衆」と呼ばれ、今は信長に仕える安藤守就(田中哲司)の娘・慶だったのです。
安藤守就は美濃国の大名であった斎藤龍興(濱田龍臣)に仕えており、織田家では新参者の身。織田家に忠誠を誓う証として娘の慶を、信長のお気に入りの家臣である小一郎に「人質」として差しだしたのでした。
「豊臣兄弟!」の時代考証担当者によると慈雲院の出自は不明
しかし「豊臣兄弟!」で時代考証を担当されている柴裕之さんが2024(令和6)年11月に編著した、「豊臣秀長 (シリーズ・織豊大名の研究)」の総論として慈雲院は実名や出自が不明であると指摘されています。
慈雲院殿は、秀長死後の天正十九年(一五九一)五月に高野山奥之院(和歌山県高野町)で逆修供養をおこなった際に設けられた五輪の塔に、「大納言北方」とみえ、なおかつ嫡男・与一郎の母であることからして、秀長の正妻であったと推察される。生没年は不詳、また実名も不明である。
さらに「豊臣兄弟!」のもう1人の時代考証担当者である黒田基樹さんも、2025(令和7)年5月に出版された「羽柴秀吉とその一族」において、慈雲院は生没年は不詳であると柴裕之さんと同じ指摘をされています。
もっとも慈雲院殿の生没年や出自は全く判明しない。生年を推定する手掛かりとしては、次に取り上げる秀長の最初の嫡男・与一郎が、慈雲院殿の実子と推定され、その与一郎は永禄十一年(一五六八)生まれと推定されるので、慈雲院殿がそのときに二〇歳とみると、生年は天文十八年(一五四九)頃と推定できることになる。
慶(慈雲院)が安藤守就の娘であった可能性について
小一郎は織田家の有力家臣と結婚できる身分にはなっていた
「豊臣兄弟!」の12話における小一郎の身分は「信長の馬廻衆」。馬廻衆とは戦の際に大将のすぐ近くに控えて身辺を警護する親衛隊のことで、それなりの身分がある武士がつく役割です。
ただ実在した豊臣秀長の動向が明らかになるのは1574(天正2)年以降のことで、慶と結婚する時期の小一郎の身分や動向は史料で説明することはできません。
それでも1565(永禄8)年には小一郎の兄・藤吉郎(池松壮亮)が東美濃の調略に成功したことが史料で説明できることから、小一郎は兄ともども武士としての身分は、決して低くなかったと推定することはできます。
そこから小一郎が結婚するとすれば、織田家ではそれなりの地位にある家臣の娘を嫁に取ることは十分に考えられるでしょう。
慈雲院が「安藤守就の娘説」については今後に期待
ただその織田家の家臣が安藤守就であったというのは、「豊臣秀長 (シリーズ・織豊大名の研究)」や「羽柴秀吉とその一族」では一切触れられていません。
「慈雲院は美濃三人衆・安藤守就の娘だった」という説について、NHKが考えた創作の設定なのか、はたまた何らかの根拠がある設定なのか大河ドラマ「豊臣兄弟!」だけでなく、「豊臣兄弟!」の関連する歴史番組にも注目したいところです。
豊臣秀長の妻・慈雲院 関連記事と参考文献
豊臣秀長の妻・慈雲院 関連記事
豊臣秀長の妻・慈雲院はその後半生において「秀長ファミリー」の家長代行として、大和国で内政を担当した横浜良慶(横浜一庵)とともに秀長をよく補佐したことが知られています。
慈雲院の後半生の動向については下記の記事が参考となるでしょう。
また下記の記事でも慈雲院について言及しています。合わせて参考にしてください。
豊臣秀長の妻・慈雲院 参考文献
今回の記事は下記の書籍を参考としています。これらの著作の著者のうち、黒田基樹さんと柴裕之さんは大河ドラマ「豊臣兄弟!」で時代考証を担当されています。
