大河ドラマ べらぼうは江戸時代中期のお話
蔦屋重三郎は1750年1月6日生まれの人
2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう」は江戸時代中期のお話です。横浜流星さん扮する主人公・蔦屋重三郎は1750(寛延3)年1月7日から1797(寛政9)年5月6日までの間に実在していた人物です。
現代を基準に考えると蔦屋重三郎は、今から約250年前に存在した日本人ということになります。
18世紀後半と21世紀の日本 常識の違い
しかし、同じ日本人であっても18世紀後半の日本と21世紀とでは、市井に住む人々が持つ「常識」の感覚はずいぶん違っていたものと考えられます。
今回の記事では現在の日本人では考えにくい当時の常識を紹介していきます。
引眉(ひきまゆ)
引眉とは
引眉(ひきまゆ)とは既婚女性の身だしなみの1つで、眉毛を抜いて剃り落とすこと。または剃り落とした眉の上から薄く引いて眉毛を描くことです。
既婚女性が引眉をするという習慣は主に奈良時代(8世紀)から江戸時代の終わり(19世紀後半)まであったと言われています。
べらぼうの引眉 ふじ・いね・りつ
NHK大河ドラマ「べらぼう」に登場する女性で、この引眉をしている女性は3人います。
- ふじ(駿河屋の女将)(飯島直子)
- いね(松葉屋の女将)(水野美紀)
- りつ(大黒屋の女将)(安達祐実)
ふじ・いね・りつに眉毛がないことについて
NHKが発表している「べらぼう」のキャスト相関図では、すでにこれらの女性は吉原にある引手茶屋あるいは女郎屋の「女将」で既婚者という設定です。
ふじ・いね・りつに眉毛がない、あるいはその上から眉をなぞることは、「べらぼう」の時代考証に忠実に対して忠実であると言えるでしょう。
ただ現代人の感覚からすると、女性が引眉をすることはどうなんでしょうか?未婚・既婚かにかかわらず、眉毛のない女性にでくわしたら、思わずのけぞってしまう気がします。
お歯黒(おはぐろ)
お歯黒とは
お歯黒(おはぐろ)とは既婚女性の身だしなみの1つで、歯を黒く染めることです。歯科衛生が未発達であった当時、お歯黒は虫歯を予防する手段でした。
お歯黒が広まった理由
身分の高い女性が甘いものを口にする機会に恵まれていたため、虫歯を予防する必要に迫られていました。
そのことから「お歯黒ができる=ステータスの高い女性」というイメージが定着して、既婚女性にお歯黒をする習慣が広まったと言われています。
べらぼうのお歯黒
「べらぼう」では吉原に住む既婚女性や、江戸城に住む身分の高い女性が何人も登場します。しかしNHKが発表している「べらぼう」のキャスト相関図では、誰一人としてお歯黒をしている女性はいなさそうです。
時代劇ドラマをつくるとき、時代考証に妥協しないNHKですが、さすがに視聴者の目を気にしたのか、お歯黒は控えたのでしょうか。
確かに現代人の常識からすると、歯を真っ黒に染めた女性が「ニカっ」と笑うと悲鳴が聞こえてきそうです。
萌黄色(もえぎいろ)
萌黄色とは
春先に草木が芽吹いて出てくるような、黄みをおびた明るい黄緑色のことを言います。
「青本」の表紙は萌黄色だった
大河ドラマ「べらぼう」に登場する鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)・西村屋与八(西村まさ彦)・鶴屋喜右衛門(風間俊介)たちは江戸の地本問屋で、彼らが扱った本のうちに「青本」という種類の読みものがありました。
現代風にいうと「青本」とは青年向け雑誌のことであり、その表紙が青かったことからきています。
ただしこの江戸時代中期の青色には、今の青色だけでなく萌黄色も含まれており、現代人の色彩感覚からすると「青本」は実は「黄緑本」ということになります。
女郎・身請け・足抜け・折檻
女郎(じょろう)はどこからきたか?
大河ドラマ「べらぼう」に登場する女郎(じょろう)とは、吉原の中で身をひさぐ遊女のことです。ではその女郎たちはどこからきているのでしょうか?おそらくほとんどが誰かの借金の抵当として売られてきたと考えられます。
現代人の感覚からすると、人権無視の人身売買ですね。江戸時代だから幕府によって吉原の女郎たちは「遊女」として特別に「公許」されていたのかもしれません。
身請け(みうけ)
女郎たちは誰かの借金を肩代わりして女郎屋に売られます。体裁としては女郎屋の主人に女郎が借金を負っているということになります。この借金のことを「身代金(みのしろきん)」と言います。
女郎が吉原から抜けるためには、この身代金を完済しなければならないわけですが、1つの方法が身請け(みうけ)でした。
身請けとは遊客が女郎の身代金を肩代わりして、身柄を引き取ることを言います。しかしこの身請けも現代人の法的感覚からすると、人身売買のそしりを免れないのではないでしょうか?
足抜け(あしぬけ)と折檻(せっかん)
ちなみに女郎が身代金を支払わずに、無断で吉原から逃走することを「足抜け(あしぬけ)」と言います。
女郎が逃走に失敗して捕まると、他の女郎たちへの見せしめという意味を込めて「折檻(せっかん)」を受けます。この折檻とは、要は暴力を振るうことなのですが、時には苛烈を極め女郎を死に追い込むこともあったそうです。
言うまでもなく折檻は現代人の法律感覚からすると「完全にアウト」です。
ちなみに「べらぼう」9話では、うつせみ(小野花梨)が女郎屋の松葉屋から足抜けすることに失敗し、激しい折檻を受けることになっています。