「豊臣兄弟!」の直は8話で死亡するが…
「豊臣兄弟!」の直が悲劇のヒロインである理由
NHKの2026年大河ドラマ「豊臣兄弟!」で白石聖さんが演じる直(なお)という女性は実在しない人物で、直は8話において故郷・中村で村同士の争いごとに巻き込まれて死去するというストーリーになっています。
小一郎と藤吉郎の故郷である尾張中村の土豪の娘。小一郎と同い年の幼なじみ。男勝りな性格だが、小一郎のことをひそかに慕っている。乱世に翻弄される悲劇のヒロイン。
2026年 大河ドラマ「豊臣兄弟!」出演者変更のお知らせ | NHKドラマ
NHKは「豊臣兄弟!」の直を戦国時代の「乱世に翻弄される悲劇のヒロイン」と設定しているところを見ると、ドラマの前半を盛り上げるために設定された創作上の登場人物で、実在した豊臣秀長と直は関係ないように感じます。
しかし本当に豊臣秀長と「豊臣兄弟!」の直は何も関係ないのでしょうか?
豊臣秀長と直 直は秀長による政治の基礎を作った人物
「豊臣兄弟!」1話・2話で直が受けた乱妨狼藉と豊臣秀長が発給した文書
すでに発売されている「豊臣兄弟!」のガイドブックで1話から17話までのあらすじを読むと、「豊臣兄弟!」の18話以降では藤吉郎(池松壮亮)は近江長浜や播磨国を、小一郎は但馬国で領国支配を開始することが分かります。
1573(天正元)年に北近江の大名である浅井長政を殲滅した織田信長は、旧浅井領をそっくりそのまま藤吉郎に与え、12万石の領国大名に取り立てます。
豊臣秀吉が北近江において大名となったほぼ同じ時期に、弟・秀長は近江国伊香郡黒田郷の百姓たちに宛て、兵士たちが乱妨狼藉をしないことを保証し、もし違反者があった場合自分のところに訴え出るようにと言う文書を発給しています。
秀長の当時の史料での初見は、その一年前の天正元年八月のことになる。八月十六日に、近江伊香郡黒田郷(長浜市)に、百姓が還住(帰村)したならば、軍勢による濫妨狼藉(暴力的な掠奪)の禁止を保証し、違犯者がいたら連絡することを命じる証文を出している。これが秀長の確認できる発給文書の初見で、「木下小一郎長秀」と署名している(秀長一)。
黒田基樹. 羽柴秀長の生涯 (平凡社新書 1088) (p. 12). (Function). Kindle Edition.
「豊臣兄弟!」の1話と2話では、小一郎と直の故郷・中村はたびたび野盗や野武士に襲われていたことが描かれていました。
実在した豊臣秀長が近江国伊香郡黒田郷に宛てた文書によると、中村で起きていた無秩序な状態は許さないと言う意思を感じます。
NHKは豊臣秀長が近江国伊香郡黒田郷の百姓たちに宛てて文書を発給した史実を念頭において、物語の冒頭部分を描いたのではないでしょうか。
豊臣秀長は但馬国でも乱妨狼藉を禁じる
さらに1577(天正5)年ごろから豊臣秀吉(当時は羽柴秀吉)は織田信長の命を受けて中国地方に大勢力を誇る毛利家を討伐するために出陣します。世にいう「中国攻め」です。
このとき豊臣秀長は主に山陰地方の攻撃を担当し、1578(天正6)年から今の兵庫県北部にあたる但馬国を統治。このときも、近江国の黒田郷と同様に秀長は自分の奉公人たちが悪党的行為を禁じる文書を発給しています。
下記の文書は豊臣秀長が、1578(天正6)から1581(天正9)年ごろに但馬国朝来郡山口郷の百姓たちに宛てた文書で、秀長の花押と署名が入った文書です。このころ豊臣秀長は「木下小一郎長秀」と名乗っていました。
壱所へ奉公人進入、悪党仕候由候、搦捕可令注進候、隠置候者、其在所之百姓共、悉可令成敗候、自然用儀於在之者、我等墨付にて可申付候、次誰々成共、宿をかり候者、一人ニびた五文、馬一ツに十五文宛取可申候、令用捨候ハ々、曲事候也、
五月四日
小一郎長秀(花押)
山口百姓中
柴裕之(編著)豊臣秀長 (シリーズ・織豊大名の研究) 戎光祥出版 99ページ
【現代語訳】
もしある場所に奉公人が入り込み、悪党であるということがあったならば、すぐに捕らえて注進(報告)せよ。
これをかくまった者がいれば、その在所(村)の百姓たちは、ことごとく処罰するものとする。
ただし、やむを得ない事情がある場合には、我々が発行する墨付(文書)によって命じることとする。
また、今後誰であっても宿を貸す場合には、人一人につき五文、馬一頭につき十五文ずつ取るようにせよ。
これを怠ったり免除したりすれば、それは罪科(不正行為)である。
五月四日
木下小一郎長秀(花押)
山口郷の百姓たちへ
山口郷に対しても上述した黒田郷と同様に秩序を乱したものに対しては、厳罰をもって対処することが書かれています。
ちなみに、宿代にしても馬のレンタル代にしてもそれらがいくらであるかいちいち金額をはっきりと明示しているところは、いかにも銭にうるさい「豊臣兄弟!」の小一郎(仲野太賀)のキャラクターに反映されていると言えるでしょう。
「豊臣兄弟!」直が亡くなった理由を断つ豊臣秀長の政策
同じ但馬国において、豊臣秀長は円山川流域の在地領主に対して鮎漁の免許状を発行しています。
鮎川之事、今日より申付候、不可有相違候、為其如候也、
天正八 六月廿五日 羽柴小一郎長秀(花押)
あさま与左衛門
柴裕之(編著)豊臣秀長 (シリーズ・織豊大名の研究) 戎光祥出版 102ページ
【現代語訳】
鮎川の件については、本日より命じたとおりに実行せよ。
決して違背してはならない。
以上のとおりである。
天正八年六月二十五日
羽柴小一郎長秀(花押)
あさま与左衛門殿
但馬国は国全体が山がちで農業生産力が低く、生活における漁業の比率が高かったと考えられています。秀長はこれらの免許状を与えることで円山川流域で暮らす土豪や百姓たちに生活保障をしていたのです。
「豊臣兄弟!」の直が8話で亡くなってしまうのも、中村に住む百姓たちは生活保障などされていないため農業資源をめぐって争いごとが起きたためです。
NHKは但馬国で豊臣秀長が民のために発給した文書の存在を知った上で、直が8話で亡くなると言う設定をしているのでないでしょうか。
「豊臣兄弟!」の直とは豊臣秀長が行う政治の基礎となった女性
確かに史実においては「豊臣兄弟!」で白石聖さんが演じる直という女性は存在しなかったのでしょう。
しかし史実として残っている豊臣秀長の文書を振り返ると、直という女性はのちの小一郎が出世をして大名として政治をするときの原体験となった象徴として描かれているような印象があります。
小一郎と直の思い出とは単に初恋だけにとどまらず、直はのちの豊臣秀長が政治をするときの基礎となったという設定ではないでしょうか。
よってたとえ直が8話で死去し、13話で小一郎が慶(吉岡里帆)(慈雲院のモデル)と結婚しても、直は回想シーンなどでたびたび登場すると予想されます。
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大河ドラマ「豊臣兄弟!」の小一郎はのちに豊臣秀長(1540~1591年)と呼ばれることになります。ただ豊臣秀長は1573(天正元)年から1574(天正2)年ごろまでは、何をしていた人なのか史料で説明することはできません。
よって小一郎の幼なじみと登場する直は、創作上のフィクションの可能性が高いと考えられます。
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ただ豊臣秀長には少なとも3人の妻がいたと考えられています。その中には名前も出自も不明な女性が1人含まれているため、ドラマの設定上、この女性に直の血縁関係者が入り込む余地が残されているでしょう。
豊臣兄弟 直 最後 参考文献
今回の記事は下記の書籍を参考としています。これらの著作の著者のうち、黒田基樹さんと柴裕之さんは大河ドラマ「豊臣兄弟!」で時代考証を担当されています。
- NHK2026年 大河ドラマ 豊臣兄弟!完全ナビブック
- NHK2026年大河ドラマ 豊臣兄弟! THE BOOK (TVガイドMOOK)
- 八津弘幸 豊臣兄弟! 前編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版
- 黒田基樹 羽柴秀吉とその一族 秀吉の出自から秀長の家族まで (角川選書)
- 柴裕之(編著)豊臣秀長 (シリーズ・織豊大名の研究) 戎光祥出版
- 黒田基樹 羽柴秀長の生涯(平凡社新書)
