案思とは何かを案じて思いを巡らせること
案思の意味と用例
NHKの2025年大河ドラマ「べらぼう」の19話「鱗の置き土産」・22話「小生、酒上不埒にて」で登場するセリフである「あんじ」とは「案思」のことであり、「作の構想」のことを意味はします。
「案思」という言葉は、べらぼう 19話の蔦谷重三郎(横浜流星)と鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)との会話の中でこのように使われています。
「それに、お前なら誰もやってねぇ『案思』を思いつくんじゃねぇかとも思ってよ」 「誰もやってねぇ『案思』?」 「春町先生は『誰もやってねぇ』ことをやりたがるお人なのよ。俺への義理立てをかなぐり捨てさせるのは、これはほかの誰かに譲りたくねぇって思える『案思』を持ってくしかねぇと思うのよ」 「……仮に俺が『案思』を持ってったとして、それを使って鶴屋さんで書くってなぁ」 「ねぇねぇ。そういうずるいことはできねぇお人だから」
森下 佳子; 豊田 美加. べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 二 (p. 167). (Function). Kindle Edition.
「案思」の箇所を「作の構想」という言葉に置き換えると、会話の意味が理解しやすくなるでしょう。
「案思」: 漢字が持つ意味を詳しく分解
「案思」の字面を見ると「思案」という日本語と似ているような感じがして、現代の日本語の1つとして使われそうに見えます。しかし「案思」は現代の日本語として定着している熟語ではありません。
- 「案」:考え・計画・提案・机の上で何かを考えること
- 「思」:思う・考える・心に浮かべる
この2文字を組み合わせた「案思」は、「何かを案じて思いを巡らせること」もしくは「熟慮・考案・思案の意に近い言葉」という意味を持つと考えられます:
「案思」: 古典中国語の観点から
大河ドラマ「べらぼう」の時代背景となっている江戸時代では、武士階級や一部の町人階級の人たちには、漢籍や古典中国語の素養がありました。
古典中国語や日本漢文訓読文の中では、以下のような文脈で見られます。
「案其言而思之」
「その言を案じてこれを思う」=「その言葉をよく考えて思いを巡らす」 (「案」=資料・証拠を照らし合わせるような思考、「思」=主観的熟考)
「案古之事,思今之用」
「古の事を案じて、今の用を思う」=「昔のことを考察して、今にどう使うかを思案する」
これらの例を見ると「案」とは理性的判断を、「思」は感情的・内面的熟慮を表し、思考の二段階を表す句として使われることが分かります。
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